飲茶先生からは「ラストシーンの構想は2つあります。どちらにするかは、書き終えてから決めます」と言われていて、概要は知っていました。
1つは、万人が納得する王道的ラスト。もう1つは、賛否両論分かれるラスト。
飲茶先生の選択は後者でした。
原稿を読んだ直後、私は放心状態になりました。
「よくこんなラストを思いつくな、、、」
「アマゾンレビューが大変なことになりそう」
正直、ネガティブな気持ちが強かったのですが、「でも面白い」と思いました。
ただ、本当にこれでいいのかと迷いました。
私の選択は2つ。
①「読者は王道を求めています」と、編集者として“もっともなこと”を言い、ラストを書き直してもらう
②「これでいきましょう!」と、現状の原稿で進める
私には本づくりのルールがあります。それは「迷ったら王道にする」です。
この仕事を続けて14年。「王道」の強さをずっと見てきました。
無難で面白みに欠けるかもしれませんが、私は「王道」企画を外したことがありません。ここは①を選択すべき場面です。
”これは著者の「暴走」だ。正しい道に方向転換させる。
それが編集者の仕事だ。
こんないい原稿なんだ。「王道」で行くべきだ。迷うな”
そう思いました。
しかし、私はラストの10行に釘づけになりました。
本書は18万字を超える大作です。
”でも結局のところ、この「10行」にすべてがあるのではないか。
18万字を読み進めた先の10行。
「そうか、そうだったのか」と腑に落ちる10行。
心臓を握りつぶす10行。
これこそが、この本の真の価値ではないか”
とも思ったのです。
右か左か。正しい道はどっちだ。
私は、飲茶先生との打ち合わせに向かいます。
正しい道はどちらか。ずっと悩みました。
飲茶先生と対面します。
「先生、このラスト、いいですね! これでいきましょう!」。開口一番、こう言いました。
「中村さん、本当にこのラストで大丈夫ですか?」
「これでいきましょう。これしかありません」
「他の人には見せました?」
「まだです。反対意見が出るかもしれませんが、この方向で通します」
続きます。次で最後です。