fa35fcd653f8f3c0bdb4227459d778d5_s

 前回の続きです。

 飲茶先生からは「ラストシーンの構想は2つあります。どちらにするかは、書き終えてから決めます」と言われていて、概要は知っていました。

 1つは、万人が納得する王道的ラスト。もう1つは、賛否両論分かれるラスト。

 飲茶先生の選択は後者でした。

 原稿を読んだ直後、私は放心状態になりました。

「よくこんなラストを思いつくな、、、」
「アマゾンレビューが大変なことになりそう」

 正直、ネガティブな気持ちが強かったのですが、「でも面白い」と思いました。

 ただ、本当にこれでいいのかと迷いました。

 私の選択は2つ。

 ①「読者は王道を求めています」と、編集者として“もっともなこと”を言い、ラストを書き直してもらう

 ②「これでいきましょう!」と、現状の原稿で進める

 私には本づくりのルールがあります。それは「迷ったら王道にする」です。

 この仕事を続けて14年。「王道」の強さをずっと見てきました。

 無難で面白みに欠けるかもしれませんが、私は「王道」企画を外したことがありません。ここは①を選択すべき場面です。

 ”これは著者の「暴走」だ。正しい道に方向転換させる。

 それが編集者の仕事だ。

 こんないい原稿なんだ。「王道」で行くべきだ。迷うな”

 そう思いました。

 しかし、私はラストの10行に釘づけになりました。

 本書は18万字を超える大作です。

 ”でも結局のところ、この「10行」にすべてがあるのではないか。

 18万字を読み進めた先の10行。

 「そうか、そうだったのか」と腑に落ちる10行。

 心臓を握りつぶす10行。

 これこそが、この本の真の価値ではないか”

 とも思ったのです。

 右か左か。正しい道はどっちだ。

 私は、飲茶先生との打ち合わせに向かいます。

 正しい道はどちらか。ずっと悩みました。

 飲茶先生と対面します。

「先生、このラスト、いいですね! これでいきましょう!」。開口一番、こう言いました。

「中村さん、本当にこのラストで大丈夫ですか?」
「これでいきましょう。これしかありません」

「他の人には見せました?」
「まだです。反対意見が出るかもしれませんが、この方向で通します」

 続きます。次で最後です。