100年たっても読まれる本を作りたい

編集者、中村明博のブログです。主にビジネス・実用・語学書を作っています。仕事に効く編集・企画・文章術を発信します。100年たっても読まれる本を作ることが目標です。

2018年03月

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・本が売れない(初版で止まる)
・伸びない(重版がかかっても、2~3刷で止まってしまう)

 こんなスランプが何回もありました。振り返ったとき、そこには共通点がありました。

 直前に大きなヒット本が出る
 →その本の成功法則を自分なりに見出す
 →似たような企画(続編etc)を出し続ける

 「売れる本にしがみついてしまった」のです。しかし、売れる本の流行や市場環境などは一瞬で変わります。その結果、

「だんだん売上が落ちる→焦る→かつて売れた本の成功法則にすがる→さらに売上が落ちる」

 このループにはまってしまいました。

 では、どう抜け出したか。これにも共通点があります。

・自分が本心から読みたいと思う企画を立てる
・今までのやり方を捨て、“どうすれば面白くなるのか”をベースに編集する

 「1人の読者として、切実にそれを読みたいか」を基準に企画を立て、本を編集したのです。すると不思議なことに、10万部を超えるヒット本が出るようになりました。

知らず知らずに、自分も「2匹目のドジョウ」を狙っていた

 出版業界では、「2匹目のドジョウを狙う」という現象がよく起こります。「売れる本が出る→その本のおこぼれにあずかろうと、他版元が似たような本を出す」という現象です。

 私はこれを非常に恥ずかしい行為だと考えており、「自分はすまい」と思っていました。

 でもスランプに陥っていたとき、自分は何をしていたのか。

「売れる本にしがみつき、その恩恵にあずかろうとする」。2匹目のドジョウを狙うのと、ほとんど同じことをしていたのです。

 「がんばっているのに売れない」

 もしこう思うことがあれば、「1人の読者として欲しいか」「2匹目のドジョウを狙っていないか」を基準に考え直してみてもいいのではないでしょうか。
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 2018年1月に発売した『「ラクして速い」が一番すごい』という本があります。現在6刷36000部。全国の書店さまのお力添えもあり、非常に好調な書籍です。

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 著者は人事・戦略コンサルタントの松本さん。PwC、マーサー、アクセンチュアといった世界的な外資系コンサルティング会社で、「人の目利き」を行ってきました。24年間で5万人以上のクビ切りを手伝い、その一方で、6000人を超えるリーダー・幹部社員を選抜します。

 この企画はいかにして生まれたか。
 それは著者とのこんなやりとりからです。

「5万人以上のクビを切って、6000人を超えるリーダーを選抜してきたってことは、できる人とできない人をたくさん見てきたんですよね」
「はい、そうです」

「じゃあ、その差って何なんですか?」
「結局できる人は、『ラクで速い方法』で仕事をしてるんですよ」

 「24年の積み重ね」から生まれたひと言です。
 
 編集者である私からは絶対出てきません。聞いた瞬間、「おおおっ!」と心が震えました。このひと言から企画が動き出します。

 この企画だけではありません。私の場合、10万部を超えた書籍はすべて「著者のひと言」からスタートしています。

 編集者を長く続けると、「自分のおかげでこの本が売れた」という勘違いをしがちです。事実私も、担当書籍が初めて5万部を超えたときは舞い上がりました。

「自分がやったから売れたんだ」「自分のやり方は正しい」と天狗になったわけです。もちろんそんなものは長続きしません。売れない時代に逆戻りです。

 本全体のコンセプト、タイトル、章構成、カバーイメージ、帯コピーetc。これらのニュアンス調整は編集者の仕事であり、ここは確かに巧拙が出ます。とはいえ、本の最終的な仕上がりを決定づけるのは、やはり著者のコンテンツです。

「すべては著者のコンテンツありき」。編集者を10年以上続けてきた私の結論です。

 紙の本であれ、電子書籍であれ、web媒体であれ、結局最後に勝つのは、社会に貢献する良質なコンテンツです。

 編集者の仕事は、コンテンツの発掘と研磨です。この認識を取り違えることなく、編集者として腕を磨き続けます。
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「どういう本を棚に入れますか?」
「やっぱり売れた本は残しますね」

「売上がそこそこの本はどうでしょう?」
「そこはパラッと見て、面白そうな本を残します」

「そうなんですね」
「棚に入れると『背』の勝負になります。仮に売れてても、タイトルがわかりにくいものは入れないですね」

(『背』とは、本棚などに本を入れたときに見える部分のことです)

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「なるほど」
「仕掛け販売も好きですが、棚差しの本が一冊一冊売れていくのも好きなんですよ。売上スリップを見るのが楽しいです」
(売上スリップとは、書籍に挟まれる二つ折りの長細い伝票のことです)

「なんかわかります。その感覚」
「どんなミリオンセラーも最後は棚に入るわけですし、棚は大事だと思うんです」

「それってどういうことですか?」
「どんなに売れる本でも、だんだん売上が落ちます。新刊もどんどん入ってきますし。だからミリオンセラーも、最後は棚に入るんですよ」

「確かに、、、」
「そういった意味でも『背』はとても大事だと思います。でも最近、『背』だけ(タイトルだけ)で内容がわかる本が減った気がします」

「そうかもしれません。僕も帯コピーとセットで考えがちです」
「売れた本も最後は棚にいきますので、『背』に気をつけていただけると、より長く売れる本になるかもしれません」

「ミリオンセラーも棚に入る」は目から鱗の話でした。正直、「背」のことを軽視していたからです。

「タイトルだけ(背だけ)で伝わる本作りを意識しているか」
「棚差しでも、競争に勝てる本になっているか」

 これをすごく考えさせられました。

 100年間、書店の棚に残り続ける本。想像もつきませんが、だからこそ目指したいものです。
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 昨日、こんなツイートをしました。

全員賛成の企画より、意見の割れた企画のほうが売れる。感覚的には賛成6、反対4ぐらい。前者はすでに世の中にあり、市場も成熟しており、全員賛成になりやすい。後者はまだ世の中になく、市場もない。だから反対意見が出てくる。でも企画として成立し、面白いから賛成意見が出てくる。


振り返ってみると、10万部を超えた本は会議の段階で、「面白そう」と「それ、誰が読むの?」が混在していた。逆に全員一致で「売れそう!」となった本は、初動が良くても2〜3万部でとまる。新市場の開拓には、「それ、売れるの?」という批判をパワーに変える必要がある。


実際に言われたこと。

『英語は3語で伝わります』→無理あるんじゃない?

『経済は世界史から学べ』→どうやって? 意味わからん

『もういい人になるのはやめなさい』→いい人でいいじゃん

『頭がよくなる図解思考の技術』→こんな難しいこと、誰がやるの?


 反響があったので深堀りします。

「企画は、反対意見が出たほうが売れる」。私はそう考えています。しかしこんな意見があるかもしれません。

「賛成と反対の声をどう見極めるのか」
「反対意見を無視するのか」
「編集者の独りよがりではないか」

 反対意見は筋が通っていて、「確かに」と頷くことが多いもの。貴重な意見です。

 自分は今までどうしてきたか。何に気をつけてきたか。

 ポイントは次の3つに集約されます。

①読者の問題解決に役立つか
 多くの場合、「それ、誰が読むの?」は「それ、何の役に立つの?」なのです。だからまずは、その本が読者の問題解決に役立つものになっているかをチェックします。「新しいもの」を作ろうとすると、読者不在の本になりがちです。基本にして、一番大切なポイントだと思います。

②著者のメソッドに再現性はあるか? or 著者の考え方は独自でユニークか?
 前者はスキル本の場合、後者は自己啓発や教養本の場合です。講演やセミナー登壇の経験も加味します。「セミナーを何回やったか?」「満足率はどうか?」「リピート率はどうか」。数字は嘘をつきません。

③自腹で買いたいと思うほどの情熱があるか
 最後は精神論ですが、意外に大事だと思っています。編集者として経験を積むと、「この著者で、このテーマだから、2万部はかたい」というソロバンをはじけるようになります。これはこれで大切なスキルですが、どこかで読者に見透かされます。やはり最後に勝つのは、編集者の、1人の人間としての「これはすごい!」「世に伝えたい!」という真摯な思いではないでしょうか。私はそう思っています。
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