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 日高さんの第一印象は「どんな失敗をしても、優しく包み込んでくれそうな人」でした。

 だからこそ、日高さんが10年以上続けている「地獄のお絵描き道場」というセミナーとのギャップが強烈でした。

「(こんな優しそうな人が、地獄のお絵描き道場の主催者? 地獄もすごいけど、お絵描きと組み合わせるところが、常人の発想じゃない)」

 あいさつもそこそこに本題を切り出します。

「日高さん、今日はお忙しい中ありがとうございます。企画については、申し上げにくいのですが、厳しい印象を持っています。ただ、日高さんが長年続けている『地獄のお絵描き道場』というセミナーにすごく興味を持ちました。セミナーのエッセンスをうまく抽出できれば、面白い本ができそうな気がしています」

 まず『地獄のお絵描き道場』の成り立ちを伺いました。

始まりは社内研修なんです。絵を描くのが苦手な若手社員を教育する、というイメージです」

「なるほど。地獄はどこからきたんですか? 相当厳しい研修だったんでしょうか?」

「いえいえ、最初の研修タイトルはもっと違うものでした。研修終了後、みんなあまりに疲れ切っていて、そんなとき誰かが『これ、まさに地獄です』と呟いたのがきっかけです」

「な、なるほど(地獄なんて感想、普通は出ない気が、、、。さらっと言ってるけど、相当厳しいセミナーなんだろうな)。ちなみに、研修ではどんなことを?」

「課題を多く出して、とにかく手を動かすことを目的にしていました。最初は、A3用紙いっぱいに丸を書いたり、人のアイコンを30秒で40個書いたり。あとは、身近なものをどんどん図解します。午前中は座学、午後はずっと図解します」

「むちゃくちゃ疲れそうですね」

「先ほど呟いた人が、『初心者向けのやさしい図解講座と言われても、まったく信用できない。最初から“地獄”と言ってくれたほうが信じられる』と言ってくれたこともあり、『地獄のお絵描き道場』というタイトルをつけることにしました」

「面白いですね。その社内研修を本にしませんか?」

「どんな本になるんでしょうか?」

「日高さんが先生役、絵が描けない若手社員が生徒役。対話形式で進む本です」

「それ、いいですね。図解本はたくさん読んできましたが、対話形式は見たことがありません

「ありがとうございます。若手社員が『図なんて書けません』と弱音を吐こうものなら、先生が『甘えるな! こうすれば書ける!』と叱咤激励して、図解テクニックを教える。そんなイメージです。」

「えっ⁉ それは、、、、。うーーーん」

「難しいでしょうか?」

「でも、なんだか面白そうですね」

企画が動き始めました。

続く