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 書籍編集者は、主にカバーと本文デザインのディレクションを行います。かつて私は、デザイナーさんに次のような頼み方をしていました。

・今回の本は~~です
・コンセプトは~~
・だから、~~というイメージでお願いします

 これでピタッとはまることもあります。しかし3回に1回くらいの割合で、「あれ、、、? 何かイメージと違う」という結果になり、デザイナーさんにご迷惑をおかけしていました。

「どうすればいいのか」と悩んだものの、答えは出ません。そんな私に転機が訪れます。あるデザイナーさんに、新刊のカバーデザインを依頼したときのことです。

 その本には直接的な類書がなく、またタイトルにも自信がなかったため、私の中でも「こういうカバーにしたい」というイメージが固まっていませんでした。打ち合わせでも、抽象的なことばかり言っていた気がします。

 ひと通り説明を終えました。しかしデザイナーさんはじっと黙り込みます。時間にして20秒は経ったでしょうか。いたたまれず、私が何か話そうとした瞬間、デザイナーさんがぽつりと言いました。

 「これって、Aという方向性ではなくて、Bですよね?」

 その言葉を聞いた瞬間、「そうそう! そうなんです!」という思いとともに、編集者としての未熟さを痛感しました。自分の中で腹落ちしていないイメージやコンセプトが、人に伝わるはずがないからです。

 それ以来、私はデザイナーさんとの打ち合わせ前に、「やってほしいこと」だけではなく、「やってほしくないこと」も整理するようにしました。少し極端ですが、

・やってほしいこと→タイトルは、明朝系のフォントを使ってシャープに
・やってほしくないこと→タイトルは、ゴシック系のフォントを使って力強く

 このように整理することで、「やってほしいこと」がどんどん具体的になっていきます。デザイン要素、例えば「文字」「色味」「ビジュアル要素」「レイアウト」などを一つ一つ整理していくと、イメージが鮮明になります。
 
 こうした整理ができていれば、デザイナーさんとカバーイメージを共有しやすくなり、打ち合わせの生産性を上げることができます。少なくとも、編集者が右往左往することはありません。
・今回の本は~~です
・コンセプトは~~
・だから、Aではなく、Bというイメージでお願いします
 現在、デザイナーさんとの打ち合わせでは、まずこのようにお伝えしています。その結果、カバーや本文デザインでつまずくことはほぼなくなりました。