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『私自身が非常に強い好奇心の持主だったのです。(中略)私の好奇心を満たそうとして企画し、出版してみると、それが多くの人の好奇心となり、ベストセラーになる』
(『カッパ軍団を率いて』神吉晴夫著、学陽書房刊、1976年)より

 私の尊敬する編集者、神吉晴夫さん(1901-1977年)の言葉です。著者の原稿を一字一句そのまま出版することが当たり前だった時代において、著者と出版社の共同作業による本作り(創作出版)を実行し、戦後最大の出版プロデューサーと呼ばれた方です。

 編集者にとって最も大切なのは「アンテナを高く張り、好奇心を持ち続ける」ことです。ヒットした本には例外なく、「心の底から知りたい(得たい)」という好奇心が詰め込まれていました。

 ただ、好奇心の発掘には努力が必要です。新鮮な感動や驚きが、いきなり空から降ってくるわけではありません。発掘のために心がけていることが3つあります。

(1)書店に行く
 最寄り駅に書店があるので、ほぼ毎日通っています。Amazon等のネット書店では、「自分でキーワードを入力し、本を探す」という能動的な本の探し方をします。「興味関心のある本」はすぐ見つかりますが、新しい出会いは生まれにくいのです。しかしリアル書店は別です。書店の棚は「見せ方」が非常にうまく、本の配置ひとつとっても工夫が凝らされています。結果、「こんな本、あったんだ!」という新鮮な感動が生まれやすいのです。時間がないときは、「ビジネス書の新刊だけチェックしよう」「雑誌をさらっと見よう」という見方をしています。

(2)人と会う
 昔は「仕事で縁のある人、縁ができそうな人」以外と会うのを控えていました。情けない話ですが、時間のムダだと思っていたのです。しかしある日、自分の立てる企画がワンパターン化していることに気づき、「このままではまずい」という恐怖心から、人と会う機会を増やしていきました。結果、「人と会う→刺激を受ける→新しい企画が生まれる」という好循環が生まれました。

(3)1日1つ、何か新しいことをする
 ランチのお店を変える(食べるものを変える)、知らないお店に行く、普段読まないジャンルの本を1ページでも読む、興味がなくても電車の広告を読む、遠回りして帰るなどなど、本当に些細なことです。「知らないお店に行く」「食べたことがないものを食べる」は、日常的に実践しやすいのでオススメです。『食べログ』評価が高くないお店に行くのも面白くて、意外な発見があったりします。

 以上3点です。編集者は著者ではありませんので、コンテンツを作ることはできません。しかし、編集者の好奇心がなければ、コンテンツも生まれません。編集者には、日ごろの感動や心の動きを大切にすることが、生涯求められると思います。